同族経営はメリットだらけ?経営学の最新の研究から調査!

この同族経営、メディアでは大塚家具や大王製紙など、ネガティブなニュアンスで語られることが多いですが、本当にマイナスなのでしょうか?

経営学では、この同族経営について豊富な研究がされています。今回はその研究データを元に、同族経営のメリットやデメリット、同族経営の是非について解説していこうと思います。

同族経営に不安を感じる経営者の方には、特に読んでいただきたいと思います。

同族経営は多い?

まず、同族経営の企業というのはそんなに多いのでしょうか?

そして、日本だと多くの会社が同族経営の会社は多いように思われますが、同族経営というのはそんなに特殊な形態なのでしょうか?

経営学では、世界での同族経営の割合というのも調べられています。

米ハーバード大学のラファエル・ラポルタらが1999年に発表した論文では、世界27か国の企業規模上位20社では「創業者一族が株式の20%以上を保有している企業」の比率は、27か国平均で約30%になると述べています(注1)。

また、米アメリカン大学のロナルド・アンダーソンらが2003年に発表した論文でも、米S&P500にリストされる企業のうち、3分の1が同族企業であると示されています(注2)。

日本の同族企業についても研究がされています。加アルバータ大学のヴィカス・メロトラが論文によると、2000年の時点では日本の上場企業1367社のうち、約3割が同族経営の企業であると明かされています(注3)。

このように、同族経営というのは日本だけでなく、世界でも多くの割合を占めているのです。

これらはある程度大きな企業が対象になっているので、中小企業はそうとも限りません。ただ、自分の経験では中小企業でも同族企業は、けっこうな数あると思っています。

(注1)La Porta,R.,Lopez-de-Silanes,F.&Shleifer,A.Corporate Ownership around the World.Journal of Finance,vol.54:471517.
(注2)Anderson,R.&Reeb,D.2003.Founding-Family Ownership and Firm Performance:Evidence from the S&P 500.Journal of Finance,vol.58:13011328.
(注3)Mehrotra,V.etal.2013.Adoptive expectations:Rising sons in Japanese family firms.Journal of Financial Economics,vol.108:840–854.

同族経営のメリットとは?

では、なぜそんなに多くの企業が同族経営という方法をとっているのでしょうか?それは同族経営に多くのメリットがあるからです。

そのメリットとはズバリ「業績」です。

最先端の経営学の統計データによる分析によると、同族経営はむしろ業績がよくなる傾向があるという研究結果が出ています。

上の研究によると、同族企業の方が非同族企業よりもROA(総資産利益率)が高いことを示しているそうです。

また、2015年にオランダ・エラスム大学のマルク・ファン・エッセンらが発表した論文によると、「米国の上場企業では、同族企業のほうが非同族企業よりも業績がよい」という総合的な結論を出しています(注4)。

これは、55本の論文を検証したメタ・アナリシスという信頼度の高い手法によって導きだされた結論なので、かなり信用できる研究結果です。

同族経営では業績がよくなるからこそ、多くの会社が同族経営を選んでいるという可能性はあります。

(注4)van Essen,M.etal.2015.How does Family Control Influence Firm Strategy and Performance?A Meta-Analysis of US Publicly Listed Firms.Corporate Governance:An International Review,vol.23:3–24.




同族経営のメリットが生まれる理由とは?

では、上のように同族経営の企業の業績が、非同族企業よりも良くなる理由とはなんでしょうか?これには2つの理由が考えられています。

理由1.経営者の暴走を止められる

株主というのは会社の持ち主であり、経営者とは株主に代わって経営を行っていると考えられます。だからこそ、経営者に対して株主は意見をする権利があるのです。

経営者というのは、時に暴走をすることがあります。経営者は自分の名声や企業の規模を大きくすることに関心があったり、過剰投資を行ったりと、株主の利害を無視した経営をする可能性があります。

同族経営では、創業家が大口株主となりますので、経営者がこのような暴走をしたときに、創業家が止めることができるのです。

ただし、中小企業の場合には創業家の規模も小さいので、この抑止力はあまり働かないかもしれません。よく暴走している社長を見るのは、これが影響しているかもしれません。

理由2.長期的な判断ができる

もうひとつの同族経営によるメリットが生まれる理由とは、長期的な判断ができるということです。

同族経営では、企業と一族を一体とみなすことがあることにより、目先の利益ではなく企業の長期的な繁栄を目指すといわれています。

一族の長期的な繁栄を目指すので、経営判断としても長期的なビジョンを持ったものになり、それが業績の成長を生んでいるのではないかと言われているのです。たしかに、自分の一族の名誉や将来的な評判を気にすると、目先の利益を追いかけるような短絡的な経営は行わないはずです。

このように同族経営では、同族ではない経営者よりも業績を上げる理由が考えられるのです。

同族経営のデメリットとは?

無能な経営者が生まれる可能性がある

では、同族経営はメリットばかりなのでしょうか?メディアで報道されるような同族企業というのは例外なのでしょうか?経営学では、同族経営のデメリットも明かされています。

それは、同族のなかで必ずしも優秀な人間が経営者として選ばれるわけではないということです。

同族にこだわらなければ優秀な人材というのはたくさんいます。しかし同族にこだわるあまりに、資質に欠ける人間を経営者としてしまう可能性があるのです。

同族企業だからこそ、大口株主の同族の発言権が大きく、その意見によって経営者が選ばれてしまうことがあるのです。

そうなると同族も経営者に甘くなり、おかしな方向に経営が進んでも修正することができません。成果の出せない経営者が選ばれてしまうのが、同族経営のデメリットなのです。

社員が重要なポジションにつきにくい

同族経営では、幹部などの重要なポジションには親族がつくことが多いです。そうなると、従業員はそのポジションを目指そうと思ってもなれません。同族経営だからこそ、親族をそのポジションから外して従業員に与えるということが難しいのです。

それによって、従業員のモチベーションが下がるという可能性があります。将来性がなければ従業員は長く働くことが難しくなり、離職率も上がってしまいます。

さらには、同族経営では間違った判断の方針が決定されても、容易には覆せないという傾向があります。そういった判断に振り回されることを避けるためにも、離職が進む可能性があります。





同族経営のデメリットを防ぐには?

このように、同族経営では無能な人材が経営者として選ばれる可能性というデメリットがあるのです。力の劣る経営者をトップに据えてしまうことほど悲惨なことはありません。

今も多くの経営者の方が後継問題に悩んでいると思いますが、この同族企業のデメリットというのが問題なのではないでしょうか。この問題を避けられれば、同族経営にかじを切ることに何の問題もないはずです。同族経営のデメリットを避ける方法はないのでしょうか?

婿養子は業績が上がる

実はこれらの解決策というのが、先の注3の論文で明かされているのです。この論文では、この問題を解決する方法が「婿養子」であると結論づけています。

というのも論文では、婿養子が経営者をしている同族企業は、「血のつながった創業家一族出身者が経営するよりも、ROA(総資産利益率)が0.56%ポイント高くなる」、「創業家でも婿養子でもない外部者が経営する企業よりも、ROAが0.9%、成長率が0.5%高くなる」という結論を得たのです。

つまり、婿養子が経営する会社というのは、一族と関係ない経営者だけでなく、同族の経営者の場合よりも業績がよくなったのです。

重要なポジションにも登用できる

また婿養子であれば、重要なポジションに従業員がつけないということもないと考えられます。

そもそも、婿養子自身が元々は親族ではなく外様であり、自分が実力で社長になっている分、親族以外の優秀な従業員を登用する傾向にあります。

では、なぜ婿養子では業績が上がるのでしょうか?

婿養子の業績がよい理由

婿養子による経営が最もよい業績を残す理由としては、同族経営のメリットを取りながらも、同族経営のデメリットをうまく避けている点にあります。

というのも、婿養子であれば一族のなかに「婿」として入ることになるので、株主である創業家と同じ目線で経営をすることができます。つまり、同族経営のメリットはそのまま活かすことができます。

そして婿養子は、資質のない人材が経営者になるというデメリットも避けることができます。というのも、婿養子というのは長い時間をかけて、その資質を選び抜かれた人材がなります。

経営者である父親やその親族たちの目によって吟味されることで、資質のない人間が経営者になるというリスクはかなり抑えられるのではないでしょうか?

まとめ

この記事では、同族経営の会社の方が業績が良くなる可能性があること、同族経営のメリットやデメリットを解説してきました。

経営学では、同族経営にはメリットが大きく、そのリスクも婿養子によって解決できるということが明かされました。大王製紙などの同族経営の企業の不祥事がメディアなどで取り上げられたこともあり、同族経営に対してはネガティブなイメージがあるかもしれません。

しかし、同族経営の企業にはメリットがたくさんあり、業績もよいというデータがあるのも事実です。そして婿養子というシステムがとても理にかなった同族経営の手法ということもわかったかと思います。

また経営者でなくとも、株を購入したり投資をする場合には、同族経営であるかどうかを判断のひとつにしてもよいかもしれません。将来に大きな利益をえられるかもしれませんよ?

今回の内容は、以下の経営学の書籍を参考にしています。経営学の最新の研究を元に、一般的に知られていない経営のミソを解き明かしてくれています。

経営に興味がある人、経営者を変えたい人は読んでおいたほうがいいですよ!

この記事が、少しでもあなたのお役に立ち、お楽しみいただけたのであれば、お友達との共有やフォローしてもらえると嬉しいです。

同族経営はマイナス
最新情報をチェックしよう!